2022年6月に発足した営業&イベントプロデュースを手掛けるメイクエンタテインメント事業部(通称Makee)の事業部長を務める細谷準平。
社内では「JP(ジェイピー)」の愛称で親しまれている細谷に、grabssやTIGETの魅力、急速に変化する音楽業界で求められていること、grabssだからこそ実現できるTIGETの未来や大きな野望について聞いた。
日々当たり前を継続しているメンバーがいる
──主催者としてサービスを利用していた立場からgrabssに加入して1年半、どんなことを感じていますか?
細谷準平(以下、細谷):grabssはいわゆるテック企業ですけど、ただ単にサービスを作っただけではありません。TIGETの場合、2013年にサービスリリースをしてからずっと改善をしたり、新機能を追加したり。今も「TIGETのこういうところを伸ばしていきたいね」ということを色んなメンバーが日常的に考えています。そのサービス愛や情熱がgrabssの魅力だと思います。
サービス自体はプラットフォームなのでチケット販売ができて当たり前なのですが、安定的なサービスを供給し、かつそれをクールに維持している。そういう姿がなんだか職人のようで好きです。
──クールな職人ですか。
細谷:表向きは血が通っていないようで、実は裏側では思いっきり熱くやっているところがいいですよね。
当たり前のように毎日使われているサービスですけど、日々当たり前を継続しているメンバーがいるんです。
──TIGETのサービスとしての魅力についてはいかがですか?
細谷:UIのシンプルさは群を抜いていると思います。イベントを登録する時にアンケートに答えていくような感じで、気が付けばイベントページが完成し、チケットを販売することができる。そういう手軽さ、UIのシンプルさ、画面設計の上手さがTIGETの大きな魅力になっていると思います。
だからこそ主催者として一度TIGETをご利用いただくと、ずっと使い続けてくださる方がすごく多いです。
──しかも、デザインも開発も基本的にはすべて内製化で運営しています。
細谷:商談をしていると、高い確率で通常の使い方以外のことをやりたいと言われます。「これはできますか?」とか「こういうことは実現できないですか?」とか。
その時に、お話をしながら頭の片隅で「こういう技術を使ったら実現できるんじゃないか」とか「こういうデザインでページを作ってもらえば、このお客さんの望みが叶うんじゃないか」と感じながら打合せができるので、その点はかなり心強く感じています。
あとはワンフロアに全部署が集まっているのはとても良いことだと思います。
社内コミュニケーションツールとしてSlackもありますけど、何かあったらみんなが気軽に声をかけて、社内の至るところでプチ打ち合わせをしています。
Makeeのミッションとは
──そんなプラットフォームとしてのTIGETにおけるMakeeの役割を教えてください。
細谷:TIGETは芸人さんが芸人さんを呼び、アイドルがアイドルを呼び、そしてファンがファンを呼んで、口コミでどんどん導入実績が増え業界シェアを伸ばしてきた歴史があり、ある程度自走できるような状態になっています。
しかし、どうしても大手の流れにはなかなか踏み込めていない。興行の歴史の中で主催者、制作者、プレイガイドの関係・座組が暗黙の了解で決まっている部分があるので、我々のような新興サービスにはなかなか大きい案件が下りてこないわけです。
一方で、大手プロダクションや各主催者の方と打ち合わせをすると、それぞれに課題を抱えているというお話を伺うのですが、その課題もTIGETなら解決できることが多いんです。
Makeeがお客様と会話し、実際にTIGETをご利用いただいて課題を解決していただく。こういった取り組みで、これまでご利用いただけていなかった層を取り込むことを実現しています。
──営業としての側面に加えて、Makeeはイベンターという側面もあります。
細谷:我々がイベントを開催する場合は、普段はTIGETを利用していないアーティストとそのファンをこちらから巻き込むことができます。
企画段階からプロモーション、制作、チケット販売、当日運営までワンストップで全部やるので、プラットフォームとは違う関係値を築くこともできます。
ビジネス的にもTIGETの手数料ビジネスからもう一つ収益の幅が広がりますし、長期的には利益を増やすことにも貢献できると考えています。
心のあるお付き合いを大切にしたい
──お客さんと接するときに一番大事にしていることを教えてください。
細谷:アーティストや主催者のライフサイクルに僕たちが入り込めるかどうかはうちの部署のテーマです。
例えばアーティストなら楽曲をリリースしたり、ラジオに出演したり、ライブをしたりという日々のライフサイクルに対して、楽曲が良かったら「いい曲ですね」と伝えます。TIGETをご利用頂いているか否かに関わらずコミュニケーションを続けていくと「次のライブはTIGETさんを使おうと思います」みたいなお話がスッと出てくる。そこに交渉があるわけではなく、普段のやり取りの延長線で自然にTIGETを使ってもらう、そういったアプローチを大事にしています。
その次は話を聞くことです。お客さんがどう思っているのか、この人は何を実現したいのか、何に困っているのかなど、丁寧に聞いていきます。最後に経験値や知見をもとに提案ではなく質問をしていきます。そうすると相手の実現したいことの解像度を上げることができて、やりたいことが明確になります。
──まずは相手に興味を持ち、そして一緒に寄り添っていくと。
細谷:当然時間もかかりますし、仕事に繋がらないこともあります。ずっと平行線のまま続くことももちろんあります。でも、人生とかアーティストのライフサイクルは常に一定ではないので、困った時に緊急で助けて欲しいことが絶対に起こるんです。その時に「うちがやりますよ」と言える関係性でありたい。だからこそ、ライフサイクルに関わり続けることがすごく大事なことだと思います。
きっかけや入口はどういう形でも良いと思います。そこからどう関係性を作っていくかが大事だと思っていて、心のあるお付き合いは大切にしないといけないと思います。
特にMakeeのメンバーはITの知識もありながら、音楽業界の知識やアイディアもいっぱい持っているので業界の中でも重宝されています。ITとエンタメの通訳者みたいになれたらいいですよね。
──通訳者ですか。
細谷:主催者の方と話して感じることは、みんなテクノロジーを欲しがっているということです。ライブやイベントのようなコンテンツを作っている人はそれなりにいて、音楽や映像を作ることはできますけど、その先にテクノロジーの要素まで絡めていくと、皆さんまだまだ足りない部分を感じています。
そういう意味ではMakeeはどっちもプロなので、テクノロジーとコンテンツをうまく通訳しながら、イベントに向き合っていることが興味を持ってもらい仕事に繋がっています。
──イベントを実施する上で心掛けていることはありますか。
細谷:イベントをする上で大切にしていることは設計です。チケットの購入前からイベントは始まっていて、イベントのジャンルやセールスポイントを決めて来場者・出演アーティストの方々にどう「期待値」を加点してもらえるかを丁寧に設計・デザインしていきます。
もちろんそれと同じくらい出演するアーティストにイベントへの期待値をどこまで引き上げて貰えるかを考えます。企画書が楽しそう、イベント自体が楽しそう、出演ラインナップが楽しそうと期待のレイヤーを当日までにどんどん上げていって、的確なアナウンス・情報解禁をすることで来場者との齟齬を少なくしていく。
そして、チケットを確実に販売し、全体のタイムテーブルや演出面を工夫し、当日のライブでいかに最高点を叩き出すかに注力する、そういった設計ですね。
変化する音楽業界で求められること
──音楽業界の変化を感じていますか。
細谷さん:CDの時代からスマホでいつでもどこでも音楽を聴く時代になったので、リスニング環境は大きく変わりました。その裏側の制作サイドからすると、原盤にかかる費用自体は変わらないので収益面としては現状のサブスクリプションモデルだけでは課題もあると思います。
そんな中で、【miim(ミーム)】というサービスが登場しました。ビジネスモデルはCDと同じで、購入特典やリリースイベントの開催などの従来のプロモーションがデジタルとうまく融合されていて、ポストサブスクとしてちょっと注目しています。
YouTubeやTikTokをはじめ、様々なストリーミングサービスが誕生し、それぞれに人気のアーティストがいます。昔はレコード会社からCDデビューすることが夢だったのですが、今はセルフプロデュース力のあるアーティストが各チャネルに存在しています。
そういう意味ではヒットの生まれ方が変わりましたし、ヒットチャートのあり方や存在意義も変わっています。ランキングに関係なくごく小さなコミュニティで流行っていればいいとか、そういう多様性は感じています。
──新しい時代が進んでいる一方で課題もありますか。
細谷:多様性自体は素晴らしいと思う反面、多くのアーティスト活動が多様性を持たないと持続性がほとんどなくなってしまうと思います。アーティストが安定的に活動できるようにするためには、我々のようなサービスの役割が大切になると感じています。
業界のプロがどんな形で関わり、スタッフが専門性を持って、アーティストの求めることを準備できているか。すなわち、共感力があるかどうか。当然、スタッフ側もスキルアップが必要ですし、リテラシーを上げないといけません。
──変化する音楽業界において、チケットに求められることにも変化はありますか。
細谷:まずファンクラブがチケットを先行発売してほぼ完売します。その残りをプレイガイドで取り扱うという潮流が益々顕著になっていると感じます。
ファンクラブの運営リテラシーがあるアーティストや事務所だったら、わざわざ手数料を取られて外部サービスにチケット販売を委託する必要はありません。
そういう意味では、TIGETも便利な電子チケットプラットフォームという立場から、もう一つ先を見据えてファンビジネスをやっていかないといけない。今、間違いなく転換期にいることを強く感じています。
韓国では「ファンダム」という動きが発展していて、日本で厳しく制限されている写真やロゴを使う権利を開放して、ファンとともにアーティストを盛り上げる仕組みが発展しています。
その辺りは日本のエンタメでも必要になると思いますし、我々のサービスで実現できるようになればより良いサービス展開ができると思います。
──アーティストとファンを繋げるというのはTIGETの理念です。
細谷:おそらくそういうサービスばかりになってくるような気がするので、TIGETとしても危機感を抱きつつ可能性も感じつつです。
ファンサイト・ファンクラブ事業、ライブ制作・コンサートプロモーター事業、この2つの機能を持つことができるかどうかが今後の大きな分かれ目になると思います。
若手に大きな仕事を任せたい
──grabssの中の課題についてはいかがでしょうか。
細谷:やっぱり人です。音楽に強いメンバーやアイドルに強いメンバーはいますが、舞台や演劇、クラシック、アート、スポーツ等、様々な分野のプロフェッショナルが集まってあらゆるイベントに寄り添っていきたいです。
加えて、これまで中小規模のイベントを中心にご利用いただいてきたので、会社として大規模イベントの経験が足りません。僕がこれまで経験してきた大規模イベントのノウハウをいかに若手に還元できるか、もちろんタイミングも重要なのですが、なるべく若いメンバーに大きな案件を任せたいです。
──大規模イベントを経験されるようになったキャリアの転機はありましたか。
細谷:30歳前後で広告代理店の仕事を担当するようになった時です。
大きな案件はとにかく本当に大変。要望も多くて、戻りもいっぱいあるし、無茶ぶりもあるし、昨日までOKだったことがNGにもなるし、かつミスは許されないし。でも、ミスが許されない環境で、マルチタスクで案件を担当したことがキャリアの転換点だったと思います。
日本中の誰もが知っているアーティストを担当するということは、普通にはなかなか経験ができないことだったので、自分の中では当時のしんどい経験こそが財産だと思います。
──大規模になればプロモーションも必要になりますが、その辺りはどうですか?
細谷:昨年はTIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)を初めてTIGETで取り扱い、今回もTGC(東京ガールズコレクション)を取り扱いましたが、若者向けのイベントに対して実証されているのが当社のプロモーション力・販売力です。
SNSの広告運用も若いメンバーが担当しているのですごくセンスがいいです。情報感度が高い人に届くのは当たり前ですから、そうではない人にどう届けるかが大事で、そこに届けられていることは強みです。TIGETに預ければ売れるということが業界を超えて認知されればTIGETがもっと求められると思います。
主催者の皆さんは結局そこを頼りたいんです。自分たち以外でも売ってくれるチャネルを探したいわけですから、「TIGETが一番売れる」と自信を持って言えるようになったら強いです。
仕事で対峙している以上はプロとして
──若手と接する時に意識していることはありますか?
細谷:一番は話しやすい空気を常に出しておくことです。何かをやりたい時はみんなソワソワしています。その時に「どうした?」って言えるかどうか。結局、自分がいないところで話しても結論が出ないことが多いので、「初めから言ってくれたら楽じゃない?最初に情報共有してね」って。
──若手のモチベーションはどのように高めていますか。
細谷:結局のところ、やりたいことをやっている時以外にモチベーションは上がりません。成果うんぬんじゃなくて、自分がやりたいことをやれているかどうか。テンションが上がっていると仕事のテンポも速いですから。
仕事なので苦手なことを任せる時もありますが、その時は一緒にプレーヤーになってあげることを大事にしています。「細谷さんもやっているし、俺らもやるしかないよね」とメンバーが思えるように一緒にプレーヤーになります。
──振り返れば若い時に常に一定の力を出し続けるのは難しかったです。
細谷:やりたくないと思うことが山ほどありました。それでも必ず自分に返ってくるんです。雑なことをしたら「あの人は雑な仕事する」という評判がすぐに広まるので、アウトプットだけは同じレベルのものにしないとプロとしては失格です。
特に我々が携わっているコンテンツは、色んなプロが関わって初めてアウトプットされています。誰か一人がいい加減なことをしたら、アーティストがいい加減なアーティストだと思われてしまう。
だからこそ「いい加減な部分は無しにしようよ」というのは、自分の中では常にあります。仕事として対峙している以上、相手からすればプロですから。
──最後に今後の壮大な夢を教えてください。
細谷:箱(会場)を持つこと、映像を作ること、インフルエンサーのマネジメント、その先にはグループのプロデュースもやりたいです。あとはITに絡めて新しいサービスも立ち上げたいです。
もう夢は尽きません。
Makeeのメンバーが考えているインバウンド向けの動きも楽しみですし、色んな野望を実現して巨大エンタメ企業にしたいと思っています。